大阪市天王寺区に佇む善福寺(ぜんぷくじ)は、聖徳太子の創建と伝えられる由緒あるお寺です。
地元では「どんどろ大師」の名で親しまれ、長い歴史の中で人々の心に寄り添ってきました。
山門横には、歌舞伎『傾城阿波の鳴門』に登場する母娘像があり、訪れる人の心に深い余韻を残します。
大阪メトロで行く六十六花御朱印巡りでご縁を頂き、初めて参拝に訪れました。
喧騒を離れ、歴史と物語に包まれる時間は、まるで自分自身と静かに向き合うようなひとときでした。
それでは、善福寺へと参りましょう。
善福寺(どんどろ大師)の歴史と由来
大阪市天王寺区にある善福寺は、聖徳太子が創建したと伝えられる由緒ある寺院です。
長い年月の中で移転・復興を経て、現在に至ります。
高野山真言宗に属し、弘法大師(空海)をご本尊とする信仰の場として、地域の人々に親しまれています。
善福寺が「どんどろ大師」と呼ばれるようになった背景には、江戸時代の大坂城代・土井利位(どいとしつら)の存在があります。
彼が深く信仰したことから「土井殿の大師」と呼ばれ、それが時を経て「どんどろ大師」へと変化したと伝えられています。
このユニークな呼び名には、土地の人々の親しみと、時代を超えて受け継がれてきた信仰の温もりが感じられます。
善福寺は、「人々の心に寄り添い続けてきた癒しの場」なのです。
善福寺で出会った母娘の物語
善福寺の山門横にひっそりと佇む銅像があります。
これは、歌舞伎の名作『傾城阿波の鳴門』に登場する母・お弓と娘・おつるの姿です。
『傾城阿波の鳴門』は、江戸時代の阿波徳島藩のお家騒動を背景に、盗まれた名刀を取り戻すために盗賊に身をやつした夫婦と、離れ離れになった娘の再会と悲劇を描いた物語です。
物語の中でも特に有名なのが「順礼歌の段」。
「ととさんの名は十郎兵衛、かかさんはお弓と申します」のフレーズで、ご存知の方も多いのではないでしょうか?
母・お弓のもとを巡礼姿で訪ねてきた少女は、かつて預けたまま離れてしまった娘・おつるでした。
お弓は娘だと気づきながらも、危険な境遇に巻き込みたくない一心で名乗らず、涙ながらに娘を帰そうとします。
その後、父・十郎兵衛と偶然出会ったおつるは、悲劇的な運命に巻き込まれてしまいます。
しかし、娘が持っていた手紙が事件の真相を明かし、夫婦は藩の危機を救うために再び立ち上がるのです。
この物語は、親子の絆、愛情、そして葛藤を描いた名作として、今も多くの人の心を打ち続けています。
像の前に立った瞬間、私は思わず足を止めてしまいました。
母と娘の表情には、言葉にならない想いが込められているようです。
この像がここにあることは、人と人との絆、時を超えて受け継がれる想いを、訪れる人に伝えるためなのだと感じました。
祈りと力が宿る勝軍地蔵尊
善福寺の境内を歩いていると、ひときわ目を引く仏像があります。
甲冑をまとい、凛としたお姿の像は「勝軍地蔵尊」。
一般的なお地蔵さまの柔らかな印象とは異なり、戦勝祈願や武運を司る、勇ましい守護仏として知られています。
この勝軍地蔵尊は、1907年(明治40年)に日露戦争で病死した兵士たちの慰霊のために建立されたもの。
その後、金属供出の時代にも「大きすぎて運び出せなかった」ため、奇跡的に残されたといわれています。
今も毎月1日と21日には護摩供が行われ、静かに祈りが捧げられています。
甲冑姿の中に宿る静けさは、まるで「守るための優しさ」を語りかけてくるよう.
勝軍地蔵尊の前で手を合わせると、ただ力強いだけではない、深い慈悲と祈りの重みを感じました。
静かに導く弘法大師のまなざし
善福寺の境内には、穏やかな表情で佇む弘法大師像が祀られています。
弘法大師(空海)は、真言宗の開祖として知られ、人々の心を導く存在として、今も多くの信仰を集めています。
大師堂は祈りの場でありながら、自分自身と向き合う静かな時間を与えてくれる場所でした。
ちなみに、修行大師に笠が無いのは太平洋戦争中の金属供出で出されたからだそうです。
心を整える、静かな時間
善福寺を訪れて感じたのは、ただ「静か」というだけではない、心の奥に響く静けさでした。
この場所には、歴史があります。祈りがあります。
そして何より、「人の想いが積み重ねられた時間」が、そっと流れています。
忙しい日々の中で、ふと立ち止まりたくなった時。
心を整えたいと感じた時。
善福寺は、そんな私たちを静かに迎えてくれる素敵な場所でした。
御朱印
大阪メトロで行く六十六花御朱印巡りの花御朱印を拝受しました。
アクセス
【所在地】大阪府大阪市天王寺区空堀町10-19
【札所等】摂津国八十八箇所第11番
【拝観時間】9:00~17:00
【拝観料】境内自由
【交通アクセス】大阪メトロ長堀鶴見緑地線「玉造駅」下車徒歩約5分、JR大阪環状線 「玉造駅」下車徒歩約10分
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