関西の寺社めぐり

正圓寺(大阪市)|参拝できない札所と代札所・四天王寺で迎えた満願の巡礼記

四天王寺・丸池の前に祀られる釈迦如来さま。おおさか十三佛霊場・第二番札所の本尊として、代札所の祈りを受け継ぐ。

おおさか十三佛霊場の第二番札所・正圓寺

かつて「天下茶屋の聖天さん」として親しまれ、大聖歓喜天を祀るこの寺は、今は静かに門を閉ざしています。

巡礼の地図に印されたその名をたどっても、辿り着けない札所。

しかし、その祈りは途絶えてはいません。

現在は四天王寺が代札所として巡礼者を迎え、正圓寺のご縁を今に伝えています。

参拝できない札所と、それを支える代札所。

その背景には、巡礼文化の柔軟さと、人々の祈りをつなぐ力がありました。

 

 

正圓寺との出会いと現在

 

私が正圓寺の存在を知ったのは、おおさか十三佛霊場を巡る計画を立てていたときのことでした。

第二番札所として、二七日(亡くなってから14日目)の法要を司る釈迦如来さまを本尊に祀るお寺。

その由緒を知り、静かで凛とした祈りの場を思い描きました。

調べを進めるうちに、このお寺が阿倍野区松虫通にあり、「天下茶屋の聖天さん」として地元の方々に親しまれてきた歴史ある寺院であることを知りました。

かつては大聖歓喜双身天(聖天さん)をはじめ、釈迦如来やさまざまな仏さまを祀り、境内には奥之院や石切社、弁財天などもあったといいます。

しかし現在は、山門が閉ざされ、境内に入ることはできません。

参拝や御朱印は、四天王寺が代札所として引き継いでおり、巡礼者はそちらで祈りを捧げることになります。

 

 

歴史とご本尊・大聖歓喜天

 

正圓寺の歴史は、平安時代中期の天慶2年(939年)にまでさかのぼります。

開基は光道和尚。

当初は「般若山阿倍野寺」と称し、現在地より東にあった阿倍寺の一坊として創建されました。

その後、大坂の陣(1615年)で焼失しましたが、元禄年間(17世紀末)に義道和尚によって現在の地に再興され、山号を「海照山」、寺号を「正圓寺」と改めました。

 

 

ご本尊・大聖歓喜双身天(聖天さん)

 

正圓寺のご本尊は、大聖歓喜双身天王(だいしょうかんぎそうしんてんのう)。

「聖天さん」の名で親しまれ、木造では日本最大級の秘仏とされています。

大聖歓喜天は、インドの神ガネーシャが仏教に取り入れられた尊格で、密教では大日如来や観音菩薩の化身ともいわれます。

男女二体が抱き合う双身の姿は、調和・結縁・願望成就を象徴し、現世利益のご加護が強いと信じられてきました。

 

 

信仰とご利益

 

古くから時代の偉人や庶民にまで広く信仰され、

■あらゆる障害を取り除く

■財運・商売繁盛

■良縁・夫婦和合

■厄除け・病気平癒

など、多岐にわたるご利益があると伝えられています。

特に正圓寺の聖天さんは「他の神仏が聞き届けない願いも叶えてくれる」との言い伝えがあり、地元では「天下茶屋の聖天さん」として親しまれてきました。

 

 

参拝できなくなった経緯

 

かつて「天下茶屋の聖天さん」として親しまれ、千年以上の歴史を刻んできた正圓寺。

しかし近年、境内は静かに、そして急速に変わっていきました。

平成の終わり頃、檀家の高齢化や参拝者の減少により、寺の財政は厳しさを増していました。

文化財の維持や堂宇の修繕費も重くのしかかり、運営は限界に近づいていたといいます。

この状況を打開しようと、当時の住職は境内の一部に特別養護老人ホームを建設し、その賃料収入で寺を再建する計画を立てました。

しかし、補助金申請の過程で虚偽の書類が作成されたことが発覚し、補助金は交付中止に。

資金計画は崩れ、工事は途中で中断されました。

さらに、建設会社への多額の未払いが発生し、寺の土地が差し押さえられる事態に発展。

その過程で不動産ブローカーらが関与し、土地や宗教法人の名義が第三者に移るなど、複雑な法的トラブルへと発展しました。

令和に入ると、元住職は詐欺などの罪で実刑判決を受け、寺は債権者から破産を申し立てられます。

2025年6月、大阪地裁により破産手続き開始決定が出され、境内は閉鎖されました。

現在、かつて老人ホームになるはずだった建物は廃墟化し、一部は心霊スポットとして無断侵入が相次ぐなど、地域でも問題となっています。

地元町会や行政は、防犯カメラや塀の設置など安全対策を求めています。

 

 

巡礼者への案内

 

おおさか十三佛霊場・正圓寺の代札所である四天王寺の釈迦如来。

正圓寺は現在、参拝も御朱印授与も行われていません。

「おおさか十三佛霊場 第二番札所」としての祈りは、四天王寺が代札所として引き継いでいます。

巡礼の際は、代札所である四天王寺で釈迦如来さまに手を合わせることで、正圓寺への祈りも届くとされています。

釈迦如来さまは丸池の前にある仏足石の後方にいらっしゃいます。

 

 

代札所である四天王寺については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
四天王寺|おおさか十三佛霊場 第四番札所・普賢菩薩と正圓寺代札所のご縁

 

 

四天王寺へのアクセス・駐車場・拝観時間など

 

【所在地】〒543-0051 大阪府大阪市天王寺区四天王寺1-11-18

【TEL】06-6771-0066

【拝観時間】境内:24時間開放(お堂の外からの参拝はいつでも可能)

■中心伽藍・庭園・宝物館
4月~9月:8:30~16:30、10月~3月:8:30~16:00(毎月21日や法要日などは時間延長あり)

【交通アクセス】大阪メトロ谷町線「四天王寺前夕陽ヶ丘駅」(3号出口)から南へ徒歩約5分、JR「天王寺駅」北口から徒歩約12分。

【駐車場】南大門に隣接した無人タイムズ駐車場(有料)あり。

 

 

 

御朱印

 

正圓寺は現在参拝できませんが、おおさか十三佛霊場 第二番札所としての御朱印は、代札所である四天王寺でいただくことができます。

私も巡礼の最後に、四天王寺で二番札所・釈迦如来の御朱印を拝受しました。

四天王寺でいただいた「おおさか十三佛霊場・第二番札所」の御朱印。正圓寺の代札所として四天王寺の印が丁寧に押されてます。

 

 

巡礼を終えて感じたこと

 

正圓寺は、今は門をくぐることも叶わず、静かに時を止めたまま佇んでいます。

けれども、その札所としての祈りは、四天王寺で今も受け継がれています。

代札所で釈迦如来さまに手を合わせたとき、私は「場所が変わっても、祈りは途切れない」ということを深く感じました。

巡礼は、ただ札所を訪ね歩く旅ではありません。

そこに至るまでの道のりや、出会う人々、そして時には叶わない参拝も含めて、すべてが心を磨く時間なのだと思います。

正圓寺の閉ざされた静けさも、四天王寺で灯明の光に包まれたひとときも、私の中でひとつの物語としてつながっています。

そして、この巡礼の締めくくりとして、私は四天王寺で満願を迎えることができました。

長い道のりの中で積み重ねてきた祈りが、最後にこの地で静かに結ばれた瞬間、それは、達成感とともに、これからも祈りを紡いでいきたいという新たな想いを芽生えさせてくれました。

これからも、こうした「祈りのリレー」を見つけていきたい――。

そして、その記録が、同じ道を歩く誰かの心をそっと支えるものであればと願っています。

 

巡礼全体の流れや各札所の詳細は、おおさか十三佛霊場まとめ記事でもご紹介しています。
次の巡礼計画や参拝の参考に、ぜひあわせてご覧ください。

⇒ おおさか十三仏霊場一覧

 

 

スポンサーリンク